梶嵜元貴 1990年7月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。

ドラマー、ビートメイカー、アンビエントアーティスト。また、その表現は音にとどまらず、グラフィックデザイン、絵画、映像、アパレルデザインと多岐にわたる。これらは単に、アウトプットの多種性を追いかけたものではない。私たちが日常的に受け取る音楽が、アートやファッションなど、時のカルチャーと強く結びつき、確立されていったように、自身が影響を受けた、音楽そのものを表現する上で、必然的に手にした表現であり、すべては音楽表現の延長線に存在すると考えている。

音楽との関わりは学生時代に始まる。ドラムを通じて、音の身体性に魅了され、その探求を、ビートメイキングやアンビエントミュージックへと発展させる。2015年に渡米。約2年間、ドラマーとして活動。アメリカ、メキシコなど、精力的にツアーを行い、世界的アーティストやエンジニアとの共演やレコーディングセッションを果たす。一方で、様々な土地で、音楽のルーツに触れることにより、自身の音楽の向き合い方に疑問を感じる様にもなる。現代ではカルチャーとして成り立っている音楽も、様々な環境において、まるで言語のような、日常的な表現であったことを再認識すると同時に、自身における音楽表現もまた、純粋な表現でありたいと、強く感じるようになり、帰国。ほどなくして、幼少期から身近にあったグラフィックデザインやアート、アパレル製作に本格的に取り組むようになる。現在では、それらの技術、表現を用いて、音楽において形式や媒体に依存しない、アウトプットそのものが楽曲の一部となるような、コンテンポラリーアートの発表や、活動を行う。また、音楽製作の手法や哲学を様々なメディアに応用することで、絵画やアパレルなど、多くの作品を発表を行う。ファッションブランドや広告、映像作品への参加など、媒体を問わず活動の幅を広げる。

日常とは、無数の瞬間の重なりであり、それらは絶えず移ろい、呼吸しながら交錯している。一見、普遍的であろうこの命題が、彼の作品の根幹を成している。次の瞬間には消えゆく、名前のない断片に、そっと名前を与えるかのように。あるいは、時間のわずかな軌跡を、まるで拡張するかのように。彼は、音楽、絵画、グラフィックなど、異なる技法を自在に往来し、存在するものと消えるものの境界を曖昧にし、ひとつの瞬間に存在する無数の時間軸を重ね合わせる。彼の作品において、私たちは日常の一瞬を捉えたかのように感じながらも、その背後に潜む無意識の流れをもまた、見出すことができると言える。その制作の始まりは、人の意識が及ばない瞬間を、意図的に切り取ることにある。沈黙に滲んでいく、ピアノの残響。ある思考が残した、線の痕跡。意図と意図の隙間に生まれる、予期せぬ綻び。それらの層がやがて互いににじみ合い、不安定な均衡を保ちながら、一つのモチーフへと結実する。 これらに、あえて主体性を持たせないことで、むしろ解釈の余白を意識的に作り出す要素となる。具象と抽象、秩序と破綻が共存する作品は、言葉に遮られることのない感情の比喩として、内面に確かな質感を刻み込む。やがて、鑑賞者は作品と静かに対峙し、その記憶や感情と共振しながら、最も親密でありながら最も曖昧な日常という主題に新たな視座を得ることになる。存在するものと消えるものが交差する場所。その場所で、鑑賞者は自らの思考や記憶の輪郭を静かに指先でなぞるように、消えゆくものと、今ここにあるものとの間に浮かぶ像を、ゆっくりと探し始める。